帰国子女や日本以外にルーツを持つThird Culture Kidsを守りたい!(Aiko先生)
英語教育を変えたい!という自分の思いに違和感
「Aiko先生は最初は中高の学校の先生としてスタートなさったんですね」
当時は「中高レベルで学校の英語教育を変えたい!」という気持ちで英語教員になりました。他の英語の先生方と戦っていた記憶があります(笑)
たとえばテストの採点時ですね。帰国子女の生徒が英語のテストで「ネイティブなら当たり前だけど日本で教えている文法的には微妙」という表現を書くと、先生方は「不正解」と言う場合が多いのですが、私は「口語表現として意味の通じる英語も認めてあげたいな」と思っていました。
「そういう採点において「英語教育を変えたい!」と思っていたのですか?」
それも一部かもしれないのですが、数年働いてみて違和感を感じるようになりました。当時は「なんか違うな」「私は英語教育を変えたいって本気で思ってるのかな」というボンヤリとした違和感でした。そのときは「似たように英語教育に情熱を燃やす先生方とは何かが違うなぁ」という違和感を持ちながら働いてました。
違和感の正体に気づく
「そのときの違和感は、今は確信に変わっているのでしょうか」
私の想いの根源は「英語教育を変えたい」だけではなくて、その根本には「帰国子女や日本以外にルーツを持つ生徒を守りたい」とか「そういう生徒に対する偏見をなくしたい」という想いがあったんだと今は思っています。
「だいぶ変わりましたね!
帰国子女って守らないといけないというか、むしろ英語も話せるし海外経験も有るし、受験においても就職においても有利な勝ち組というイメージが強いのですが、、、」
全員というわけではないのですが、帰国子女の中にはアイデンティティにおいてモヤモヤとした言葉にできないものを抱えている人がいます。世界的には「Third Culture Kids(TCK)」という呼称があるくらい大きな関心ごととして扱われているのですが、日本では「帰国子女」「帰国生」と一括りで呼ばれていますよね。
外国に住んで日本に帰ってきた帰国子女(以降TCKで統一)であれば、たしかに外国語に馴染みがある人が多く、海外経験もあるというのは事実です。ですが実際の生活は、たとえば海外でも馴染めず人間関係で苦労したり、日本語の勉強が遅れすぎないよう休日も補習校に通ったり、大変な面もあります。
海外に馴染めた生徒なら良いのですが、馴染めずに「外国人」として暮らし続けたとしたら、日本に帰ってからも「純粋な日本人」とは違う扱いを受けてしまった際に「自分は誰なんだろう、自分のルーツ・アイデンティティはどこにあるのだろう」という精神状態になってしまうこともあります。海外に馴染んで帰国した人も帰国後、日本に適応する過程でアイデンティティがあやふやになる人もいます。
だからこそ程度の差はありますが、多くのTCKがアイデンティティに対するモヤモヤを抱えています。「日本の学校や社会に溶け込めないのは、自分がTCKだからかも」という想いを抱えたまま大人になっていく人もいます。
答えは自分のルーツにあった
「なるほど、深刻な悩みを抱えているのですね。
Aiko先生はどうやって「英語教育を変えたい!」という気持ちへの違和感の正体が「TCKを守りたい!」という気持ちだったのだと気づいたのでしょうか?」
まず私自身もTCKであり、中高の教員時代から今に至るまでTCKの生徒を教える機会に恵まれていることがあります。私自身ずっと「日本人らしく振る舞わなければならない!」という強迫観念を持っていて、TCKとしての自分を否定するように過ごしていたのです。
それが数年前にアイデンティティ・クライシスを迎えまして(笑)「ありのままでいいのだ」という単純なことを友人に気づかせてもらい、視野がバーっと広がるような経験をしました。そういった自分の経験をTCKの生徒にも共有すると「先生も悩んでたんですね!」「それでいいんですね!」「まさにそうなんです!」というような、長年の悩みから救われたと感じる生徒が多かったことは大変印象的でした。自分の変化と周囲からのフィードバックによって「TCKの人は結構悩んでいる人が多いんだな」と確信したのと同時に「TCKを守りたい・理解したい・そして理解されるようにしたい」という強い気持ちが芽生えました。
「具体的にはどういうアクションを考えているのでしょうか」
いまTCKの人たちに声を掛け合って、気軽な会合や私がTCKについて研究した内容を共有するといったフィールドワークを行っています。帰国子女研究・TCK研究については実は日本で盛んだった時期もあるのですが、現在は「帰国子女問題は解消した」とされている風潮があります。しかし、これからますますグローバル化が当たり前になっていく中で、TCKをどのように日本社会に迎え入れるか、教育していくかは大きな課題だと感じています。これは外国語教育にも深く結びついていると思いますので、これからTCK研究と外国語教育を結びつけながら研究と実践を深めたいと思っています。